11月15日(土)、d47 design travel storeにてd SCHOOLを開催しました。
今回は「山形鋳物 長文堂の鉄瓶」について、長文堂の長谷川さんに話しをうかがいました。
鉄瓶はお湯を沸かす生活道具であり、その道具を「育てる」楽しみを私たちに与えてくれます。
無骨で、重そうで、扱いが手間そうな、と印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
本当はとても身近で意外と手軽なんです。
山形鋳物を作り続ける、長文堂の長谷川さんに作り方からその形、扱い方までわかりやすくお話ししてもらいました。
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山形県の特産、山形鋳物。
鉄瓶というと岩手の南部鉄器を思い浮かべる方も多いと思いますが、山形県も遥か昔から続く鋳物の産地。
その歴史は山形市内を流れる最上川で取れる川砂が鋳型に適していることから鋳物の産地として発展したことに始まります。
平安時代から続く900年の歴史の中で、生産する職人も少なくなってきました。今回お話してくれた長谷川さんは、「長文堂」の三代目。貴重な鋳物職人のおひとりです。
長文堂三代目 長谷川光昭さん
薄肉美麗と呼ばれる山形鋳物はその呼び名の通り、薄い。長文堂の鉄瓶は常に2.5mmで作られており、熱回りが早いのです。
表面は鋳肌をそのまま活かし、取手部分には縁起物のなすびや蓮、貝などがあしらわれています。
長文堂の初代、長谷川長六さんが創り出した型を現在も使い続けています。
鉄瓶はおおまかにいうと上下二つの型をあわせて、その中に鉄を流し込み作られます。
型は、鉄を流し込んだら壊し、壊したときの砂をまた再利用して、型をつくります。
通常はひと月に40個、繁忙期には2倍の80個ほど型をつくります。月に一度やってくる流し込み作業(鋳込み)は真剣勝負。気温、鉄の温度、作業スピードとの戦いです。2時間半ですべての型に鉄を流し込むので怒号が飛ぶことも。
今回の勉強会では、はるばる山形から、鉄を流し込んだ型が届きました。
特別に、鋳型から鉄瓶を取り出すところを実演してもらうことに。
トンカチでゴツゴツと鋳型を叩くと、ぼろぼろと型が割れていきます。
鉄瓶の中、空洞を作るための中子(なかご/砂でできています)は熱で崩れ落ち、最終段階で焼きを入れる一歩手前の、生まれたての鉄瓶を見ることが出来ました。
まだ表面加工の「おはぐろ」と呼ばれる仕上げも漆塗りもされていない、鉄らしい銀色の、まだ若々しい鉄瓶です。本来はこの後に火入れをし焼き上げます。焼くことで酸化皮膜ができます。
酸化皮膜で覆われた鉄瓶の内側は青みを帯びていて、それを覗いて、まるで宇宙のようと表現するスタッフも。さらに外面に漆を塗ることで鉄瓶の美しく、力強い姿になります。
ここまで作る工程を知って見て、スタッフ一同鉄瓶の歴史や型の精密さ、面白さにぐっと引き込まれ、なにより、型から取り出される瞬間には皆で息をのみ、生まれたての鉄瓶の美しさにうっとりとしました。
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さて、お手入れについてです。
湯を沸かした後は中身を出し切り、その余熱で水分を蒸発させるだけ。乾かすことが大事です。
鉄瓶をガスコンロで再度温め乾かしきる、という説もありますが、空焚きは何よりも厳禁。錆よりも悪い、と長谷川さん。
さらに日々使っていくと、酸化皮膜がとれていき、水の中に含まれるカルシウムなどの成分が内側に付着して白っぽい「湯垢」ができてきます。この湯垢がお湯をまろやかに柔らかくしてくれるのです。錆びにくくもなります。この、湯垢を育てる、これこそが鉄瓶の醍醐味であり、育てる楽しみなんです。もし赤錆水がでてきてしまったら、茶殻を入れて煮立て、水がきれいに落ち着くまで繰り返します。
そして、洗わない。
鉄瓶は乾かすだけで、洗いません。
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いままで興味はあったけれど、なかなか手を出すことができなかった、棚の奥にしまっていた鉄瓶。長谷川さんの話をきき、「一生ものの道具」なんだという認識をあらためて強めました。
鉄瓶を買うには覚悟が必要かもしれません。
でも日々使うには何の気負いもいらないのだと感じさせてくれる長谷川さんの話でした。
実はまだまだ、ここはこんな風にできている、こんな時はこうすると良いということ多く伺いました。なにか疑問や心配などあればスタッフまでお話しください。一緒に鉄瓶を身近なものにしていきましょう。
日本のものづくりを紹介する「NIPPON VISION GALLARY」-山形鋳物 長文堂の鉄瓶-は12月3日(水)まで開催しています。
一部商品は定番品として常時販売しています。ぜひご来店ください。
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d47 design travel store 薗部