現在、錫光の職人は、中村圭一さん、陽山貴之さんのお二人。
(左:中村さん 右:陽山さん)
錫光は、中村さんのお父様が始められた工房で、中村さんは二代目でいらっしゃいます。
中村さんは、錫職人になる前は、なんとサラリーマンだったそう。
他の錫工房に勤めていたお父様が独立される際、そのお手伝いのために脱サラし、職人の道に進まれたそうです。
脱サラしたのは、30歳の時。
職人としては、遅いスタートだったため苦労も多かったとか。
周囲の人に「やっぱり若いうちに始めないと難しいね」と言われたことに「なにくそー!」と奮起して、
ひたすら技術を磨いてこられたと話してくださいました。
今ではその人に感謝している、と笑ってお話される姿に、中村さんの大らかな人柄と職人としての強い思いが
伝わってくるお話でした。
<錫器づくり>
今回の工房見学では、お話を伺い、作業を見せて頂くだけでなく、錫器づくりを体験させて頂きました。
錫器づくりの工程は、とてもシンプルです。
原料である錫の固まりを溶かし、型を取る。
型から外した器を、ロクロで削り、磨き、鎚で模様を描く。
(詳しくは、写真とともにこちらで紹介していますので、ぜひご覧ください。)
しかし、実際に体験してみると、シンプルなだけに、職人さんの技のすごさに圧倒されます。
たとえば、「カチコミ」と呼ばれる作業。
これは、ロクロに取り付けた器が曲がってないか確認し、調整する作業です。
実際にやらせて頂きましたが、ロクロをまわせば、軸がずれている事はすぐに分かります。
ですが、ロクロが止まる瞬間に、曲がっているポイントを見つけ出すのがとても難しいのです。
私には、何度まわしても分からないものを、中村さんは一瞬で「ここを叩いて」と教えてくださいます。
さりげない作業なので見過ごしがちですが、一般の人にとってはとても難しい作業でした。
「ロクロ挽き」も体験しました。
鋳型から外した器をロクロに取り付け、「カチコミ」で調整したら、いよいよカンナで削り、磨いていきます。
私が削らせてもらった結果がこちら。
左が、私が削ったもの。右が中村さんが削ったものです。
私が削ったものは・・・、目も当てられません。
うまく削れているときは、「シュルシュル」と小気味良い音をたてて削れていきますが、
回転する器にカンナが取られ、安定して削る事がなかなかできません。
鎚目(ツチメ) も体験させて頂きました。
磨いた錫の器を、鎚(ツチ)でたたき、模様をつけていく作業です。
説明するまでもありませんが、左が私のもの、右が中村さんのもの。
さほど力を入れなくても鎚目をつける事はできますが、難しいのは、ミリ単位で狙った位置に鎚を打ち込むこと。
錫光の酒器には、鎚目が幾何学模様に、器の側面を飾っている酒器が多くありますが、
一回でも打ち損じてはダメなんだと思うと、思わずため息がでます。
このような作業を、中村さんも、陽山さんも、流れるように進めていかれます。
今回の訪問で私が見てきたことは、錫器づくりのほんの一部です。
それでも、工房を覗かせてもらったことで、鎚目の模様をまじまじとみて
「きっとここは使っている鎚の種類が違うな」と気づけたり、
「器の内側を磨くのは、難しいんじゃないか」等々、いろんな想像がわいてきます。
作り手のことを知ると、これまでに思いつかなかった想像がわき、器を手にとる時間が長くなる気がします。
そういう想像は、器を使う楽しみと、愛着をより一層深めてくれると思うのです。
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