7月6日(日)、d47食堂では「d school わかりやすい日本酒」を開催しました。
山口県「地酒のまえつる」店主・前鶴健蔵さんをお迎えした勉強会。
当日の様子をレポートします。
「学校は給食の時間が1番好きだったのでねえ。机の上でじっと勉強するのは苦手なんですよ。
今日はみなさんがお店に来たと思って、一緒にお気に入りの1本をみつけるお手伝いをするように、
お話ししようと思います。」
そんな前鶴さんのご挨拶から始まった、「d school 分かりやすい日本酒」。
今回講師にお呼びしたのは、山口県下関市「地酒のまえつる」の店主・前鶴健蔵さんです。
『d design travel 山口号』を取材中の編集部がお店に立ち寄ったのがきっかけで、前鶴さんと出会い、
そこから d design travel storeでは年に3回、角打ちという立ち飲みイベントを行ったり、
d47食堂でもこの1年、毎月1本山口の地酒を中心にセレクトしていただきました。
ビールやワインなどはお店でも注文するけれど、日本酒って、何から選べばいいかわからない…。
そんな方も多いのではないでしょうか?
前鶴さんと話すと、日本酒が楽しく、身近なものに感じます。
日本酒に少しでも興味がある方に、もっと日本酒を知って、楽しんでいただこうという想いから、
今回の勉強会を開催するにあたりました。
当日は「普段はあまり日本酒を呑まないけれど、ビールのあとの2杯目で少し」という方が多くいらっしゃいました。
いつもの食堂とは違う雰囲気の中で開かれた勉強会。
会が始まるまでの間、みなさまにはお水の飲み比べをしてお待ち頂きました。
ひとつは「長陽福娘」の仕込み水。もうひとつは、東京の水道水。
冷たいうちは違いが分かりずらかったのですが、常温になると、仕込み水が、軟らかく丸みを帯びた味に感じます。
「長陽福娘」と合わせて呑むと、日本酒と水の影響をまた感じて面白い!
地域によっても、硬かったり、軟らかかったり、味の異なる水。
酒蔵では、地元の湧き水を用いたり、山から水を運び、酒を仕込むのに使用しているそうです。
乾杯のあとは、まずはブラインド!
銘柄など、情報なしで、4種類の酒を呑み比べます。
今回用意したのは、
・「雁木」 純米吟醸無ろ過生原酒
・「貴」 純米吟醸(火入)
・「東洋美人」 純米大吟醸(1回火入)
・「長陽福娘」 純米酒 酒米山田錦(火入)
の山口の地酒4種。4種類とも「山田錦」という酒米を使っています。
このときに、酒を人に例えると面白いよ、と前鶴さん。
「初めはとっつきにくいと思ってたけれど、知れば知るほど好きになる友だち」など、
酒の印象を人に当てはめてみるのです。
みなさんに、それぞれの酒にどんな印象を受けたか聞く前鶴さん。
フルーティーで、まろやかで、甘みを感じる酒がここでは人気でした。スイスイと呑み進めやすいという意見が多かったです。
ここで、料理長特製のお料理が登場!次は、料理と合わせて呑んでみます。
料理は、甘辛い函館名物・イカ飯、冷製茶碗蒸し、自然栽培の枝豆を使った白和え、イサキの刺身に、d47食堂特製の糠漬けも!
日本酒好きの料理長の気合いを感じました。
料理とあわせてみると、先ほど酒だけで呑んでいた時と、酒の印象が変わってきます!
たくさんは呑めないかなあ、アルコールが強く感じるなあ、と酒だけを味わっていたときにクセを感じたものが、
料理と合わせてみると、面白いくらいに酒が進む進む!
逆に、先ほど酒だけで呑み、華やかな香りが美味しい!と思っていたものが、
その香りがうるさく、食事には合わなく感じてしまう方も。
酒だけ呑んだ印象と、料理と合わせた時の印象が異なるのも、ひとつ日本酒の魅力ではないでしょうか。
自分の呑むシチュエーションや、お料理に合わせて今日の一杯を決めるのも面白いですね。
今回、ご用意したお料理は、食堂の料理長がこの日の為だけに作った、特別なもの。
「どんな料理が日本酒には合うのですか?」という質問もありましたが、
「日本酒は米からできているから、米に合うオカズはだいたい酒に合うと思うんですよね。私の父はカレーのルーをつまみに
酒を呑みますよ」と前鶴さん。
ただ、フルーティーな「東洋美人」のような酒には、メロンや桃など、ジューシーなフルーツにも合うそうなんです!
その話を聞いた料理長は、大阪から泉州水茄子を取り寄せ、刺身でご用意!
何もつけず、生のまま頂きます。
水茄子のジューシーな甘さが、「東洋美人」にもピッタリ!
その他、「東洋美人」の酒粕を取り寄せ、「鶏肉の酒粕煮」や「酒粕の胡麻味噌和え」も用意。
普通、酒粕というと白い色を想像するかと思うのですが、こちらの酒粕は薄茶色。麹のもともと持っている色なんだそうです。
お料理を食べながら、前鶴さんに日本酒の話を伺います。
日本酒の中には、純米酒や、特別純米、純米吟醸など、たくさん種類があります。
みなさんの中には、「大吟醸」と記されているのがおいしい酒!というイメージをもたれる方も多いのではないでしょうか。
この種類の違いは、精米歩合(精米後の白米の、元の玄米に対する重量の割合をいうもので、普段食べている
白米は90%くらいです。数値が低くなるほど、高度な精米という訳です。)によって大体決まっているのですが、
ハッキリと「◯%精米している米を使ったものが吟醸!」といった訳ではないそう。
60%以上精米したら「吟醸」って呼んでもいいよ、くらいのものなのだそうです。
だから、同じ60%精米の米を使っても、「これがうちの吟醸だ!」という酒蔵と
「うちはもっと精米した米を使った酒(50%や40%)に吟醸と付けようと考えているから、吟醸とはまだ呼ばない!」という酒蔵があるということ。
もしかしたら「わたしは吟醸が好き!」と思っている方も、一概に「吟醸」と記されているものが、
全ての蔵で自分の気に入るものではないかもしれないですね。
「日本酒って、ハッキリとルールが決まっていて、難しい用語を覚えて、そうしないと楽しめないものだ」と思っていました。
ところが、前鶴さんのお話を聞くと、日本酒って難しくないんだと気付かされます。
「じゃあ、どんな風に酒を選べばいいんだろう。手当たり次第に呑むしかないのか?」と、
思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのときに役に立つのが、難しく思えた日本酒用語。
意味を知ってしまえば、自分好みの味を酒屋で見つけるための手助けになります。
例えば、「酸度」は、数値が高ければ後味がスッとする。「日本酒度」が高ければ辛く、低ければ甘い。
呑んでみて「おっ、こいつはおいしい!」と思ったら、瓶の裏に貼ってあるラベルを見て、ちょっと数値を覚えておく。
するとそのあと、酒屋で何本もの日本酒が並んでいる中から、自分の好きな味に出会える可能性が高くなります。
「難しく考えず、とにかくまずは呑んでみること。」
前鶴さんとお話しすると、よくこの言葉が返ってきます。
「日本酒は嗜好品だから、みんながみんな同じ感想をもたなくていいんですよ。みんな舌が違いますからね。」
好きな銘柄が見つかったらラッキー!日本酒は、何千種類もあるんです。
まだ日本酒をおいしいと感じたことがない人も、どこかで自分好みの酒が待っている、そう思うと楽しくなります。
吟醸系のスッキリとした味が好きな人もいれば、純米酒系の味の深いものが好きな人もいる。
自分の好きな味を知るには、まず呑んでみることが始まりなのです。
前鶴さんは「一人に100杯日本酒を飲め、と言ってもむずかしいじゃないですか。
だけど、今まで全く呑まなかった0杯の人にまず1杯呑んでもらうのは簡単だと思うんですよね。
そんな人を100人つくって、アルコール人口を増やしたいんです。」とおっしゃいます。
「前鶴さんがオススメする酒はなんですか?」という質問もありましたが、一升瓶あたり2000円〜3000円台の酒、
という答えが返ってきました。
それで気に入った蔵の味は、他の価格帯でも、だいたい気に入るのだそうです。
「いい酒に出会うには、自分好みの酒屋に出会うことですね。
私のお店に来られた方の中でも、気に入ってくれる方もいれば、そうじゃない方もいる。
もちろん、うちの店を気に入ってくれたら嬉しいですけど、違う店でその方が好みの酒と出会えるのなら、
それはそれでいいと思うんです。」
前鶴さんいわく、「地酒のまえつる」は個性派な酒屋だそう。
酒蔵の造りたい味を大切に考える前鶴さん。
以前に蔵元が言っていた酒と違う味の酒が出来てきて、理由を問うと
「大手の酒屋がこういう味を造ってくれと言ったから」ということも。
そういうとき「前に作りたいと言っていた味と違うじゃないか」と、酒蔵とケンカすることもあるそうなんです。
「ブームになる酒を造っても、ブームが去ればその酒を造っていた蔵は途絶えてしまう。
それよりも、蔵の個性を感じられるような、意志のある酒を造っている蔵を応援したい。」
そう思っているから、多くの酒屋に置いてある有名銘柄も、前鶴さんのお店にはありません。
有名銘柄を求めて訪れるお客様が1日10組いらっしゃることもあるそうですが、
それでも、自分の本当にオススメしたい酒だけを置いているそうなのです。
前鶴さんの話を受けてから街を歩くと、自分が思っていたよりも個人の酒屋が多いことに気付きます。
取り揃えている酒は、その酒屋の性格を表すもの。
街で酒屋を見つけた際は、ふらっと寄って、店主と話をしてみるのも面白いかもしれません。
「酒蔵とは、ヒザを突き合わせて、真剣交際で関わっていますからね。
言いたいことや気になる点はハッキリと言うし、その酒蔵を思えばただ黙っているだけじゃいけないんですよ。」
こういった言葉から、前鶴さんの真面目な性格が伝わってきます。
店ではメモ紙に書きながら、お客さんの質問に答えているという前鶴さん。
今回はスケッチブックをご持参して頂き、説明をしてくださいました。
参加された皆さんも、会が進むごとに前のめりになっていました。
前鶴さんと話を聞くと、みんな前鶴さんの人柄に惚れてファンになるんです。
初めての講師、ということで、前鶴さんも少し緊張されていましたが、
「日本酒のわからなかった事が知れて、さらに日本酒について知りたくなりました」という声もいただき、
ホッとしたご様子でした。
ご参加くださったみなさま、本当にありがとうございました!これからたくさん日本酒を呑んで、たくさん自分の好きな味に
出会ってくださいね。
「今日お話したことは、僕の考えで、違う考えの酒屋さんも、もちろんいらっしゃると思います。
答えはないと思うので、また違う方のお話も聞いてみて下さいね」と、
前鶴さんには次回へのパスもしていただきました。前鶴さん、楽しいお話を本当にありがとうございました!
今後とも、47都道府県の酒屋さんや酒蔵さんをお迎えし、全国の日本酒話をみんなで学んで行こうと思っています。
お楽しみに!
(d47食堂 菊地妙子)