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REPORT

「リアルな場の価値」ってなんだろう? MOV×PORTO×FLATS 渋谷ヒカリエ8/ コミッティ勉強会 2023年6月7日(水)19:00〜20:30

渋谷ヒカリエ「8/」は8/で活動するディアンドデパートメント、コクヨ、アートフロントギャラリー、アンドコー、東急文化村、東急で構成される「8/コミッティ」により共同で運営を行っています。8/コミッティでは、コミッティメンバーが持ち回りで企画し、それぞれが今何に興味を持ち、どのような活動をしているかシェアしながら相互理解を深める勉強会を定期的に開催しています。

今回はゲストに、ソーシャルバー「PORTO(ポルト)」のオーナー・嶋田匠さんをお招きし、8/の会員制コワーキングスペース「Creative Lounge MOV」の店長・太田温子さん、シェアハウス&スタジオ「THE CAMPUS FLATS Togoshi」の運営企画担当・鷲見幸代さんの3名によるトークセッションを開催。それぞれ違った業態からの視点を持ち寄り、「リアルな場」の価値について考えます。

< Profile >

嶋田 匠(しまだ・たくみ)氏

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1992年、東京生まれ。慶應義塾大学卒。2018年、日替わり店長ソーシャルバー「PORTO(ポルト)」を有楽町に開業。2021年に日本橋店をオープン。2019年には「コアキナイ」プロジェクトをスタート。少人数制のゼミや、コミュニティの起点となるシェアハウス、ガレージなど、リアルな「場」をつくる活動を続けている。

 

太田 温子(おおた・あつこ)氏

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2012年、「Creative Lounge MOV」のオープン時からスタッフとして勤務。2014年に店長(マネージャー)に就任。"みんなちがう"を合言葉に、誰もが楽しく働ける職場づくりに取り組み、人と人を繋ぐ方法を常に模索している。2017年開設のオウンドメディア「MOV Channel」では、 メンバーの仕事や生き方を広く発信することを目指し、編集長も兼任する。

 

鷲見 幸代(すみ・ゆきよ)氏

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2017年、コクヨ&パートナーズ株式会社に入社。コワーキングスペース運営リーダー・マネージャーを経て、2019年より施設運営企画・立上げ担当として、複数の施設企画・立上げを経験。副業で不動産業にも携わるパラレルワーカー。

 


「場」を創造する、三者三様の視点と活動内容

勉強会は、個々の活動紹介、トークセッション、参加者からの質疑応答の3部に分けて行われました。コンセプトや提供するものも含め、大きく形態の異なった事業を行っている3名の視点を通した「場」への考え方を学ぶことで、コロナ禍を経て今改めて注目されている「リアルな場の価値」について問い直しました。

 

誰もが「ここにいてもいい」と思える居場所をつくる

『よりどころ』と『やくどころ』

嶋田:「みんなが居場所を感じられる社会ってどんな社会なんだろう?」っていう疑問を仲間と一緒に検証しながら、様々な事業に取り組んでいるのですが、そこに共通する考え方として、場所というものを『よりどころ』と『やくどころ』と分けて言葉にしています。

 

「あなたがいてくれることがすごく嬉しい」って思える関係性を『よりどころ』と呼んで、逆に「これができるから、そこにいることを歓迎されている」という関係性を『やくどころ』と定義しています。

 

こうして並べると『やくどころ』が少し冷たく感じてしまうかもしませんが、『よりどころ』しかない状態だと「私ってここにいていいんだっけ?」って思ってしまうし、『やくどころ』しかないという状態だと「期待に応えられなくなったら、いられなくなってしまう」という不安が生まれてしまいます。『よりどころ』と『やくどころ』、どちらも感じられるのが、コミュニティに居場所があるという状態だと考えています。

 

 

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「日替わり店長バー」という『よりどころ』

嶋田:『よりどころ』づくりの事業として行っているのが、日替わり店長バーの「PORTO」です。たとえば「第 3 水曜日は鷲見さんの場」みたいな感じで、曜日と週を固定して、月に 1 回お店に立てる店長たちが40 人ほどが、日替わりでお店に立っています。

 

日替わりにしたのは、都市において場に立つことのハードルの高さを、自分自身がフルタイムで働くなかで感じていたからです。なので、月 1 回ずつみんなでシェアする形だったら、気軽に場に立てるし、その人を起点とした場が形成できるかもしれないと思って始めました。SNS でリアクションし合うだけじゃなくて、その場にふらっと訪れることができて、よりリアルに『よりどころ』を実感できる場として、 5 年前から続けています。

 

そこからガレージができたり、他のビルができたりと、「こんなものがあったら」を、みんなで考えて、作って、営んでいく社会づくりプロジェクトのようなことをやっています。その結果生じる豊かさを共に育んでいける場をつくっていけたらいいなと感じています。

 

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「コワーキングスペース」黎明期から育んだ10年

異なった状況、思考を持った方が、それぞれ心地よく過ごせる居場所

太田:ここの会場の奥をまっすぐ行ったところにある「MOV(モブ)」というコワーキングスペースの運営を行っています。「いろんな働き方にちょうどいい場所」でありたいと思って日々運営しています。

 

「MOV」という名前は「Movement」という単語の 最初の3 文字を取った造語で、2012 年にオープンしました。約 150 席のオープンラウンジや、 その奥に、24 時間 365 日アクセスできるエリアや、最大24名が利用できる会議室、1人用のPHONEブースも揃っています。

 

法人登記も可能なので、ビジネスの拠点としてご利用いただいている方も、個人で利用されている方もいらっしゃいます。

 

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ゆるやかにアイデアの交流が起こる・会話のきっかけをつくる

太田:MOVがコワーキングスペースとして変わっている点としては、たとえば、入口のショーケースで、週単位でいろんな展示をしています。アートの展示や、アパレルの展示、企業のプロモーション、 1 週間そこで作業するみたいな面白いこともやっています。

 

場所柄、業種も年齢も性別も国籍も多様な方々がいらっしゃるなかで、緩やかにアイデアが交流されているので、私たちは、その会話のきっかけをできるだけたくさんつくりたいという想いで、日々運営に取り組んでいます。

 

そのうちの 1 つが、メンバーパーティーです。普段は忙しそうで話しかけられない方に話しかけて「どんな仕事をしているんだろう?」という、もやもやを解消するいい機会になっています。

 

今もいただいた意見をもとに、いろんなアイディアを形にしていっている途中です。オウンドメディアの運営もしていて、ここでメンバーのことや、MOVで起きているいろいろなことを発信しています。ラジオも最近始めて、ちょっとずつ力を入れているところです。

 

「私たちはみんな違う」ということをモットーにしていて、いろんな状況とか思考の方々がそれぞれに心地よく居場所だと思っていただける仕事場ってどういうものかを日々模索しながら運営しています。

 

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「いつかやってみたいこと」を試せる集合住宅

プロトタイプする暮らし

鷲見:今絶賛取り組み中なのが、コクヨの新規事業である「THE CAMPUS FLATS」です。コクヨの品川オフィス「THE CAMPUS」の新展開として2023年9月のオープンに向けた準備を進めています。

 

戸越にあった社員寮をリノベーションして立ち上げるプロジェクトで、「プロトタイプする暮らし」をコンセプトに据え、住みながらいつかやってみたいことを試せる新たな形の集合住宅です。

 

具体的には、1階にパブリックエリアという住人以外も使えるスペースがあり「フードスタンド」として、地域の人も住んでいる人も気軽に立ち寄れる場になる予定です。ピザトーストみたいな軽食やコーヒーもあって、住人が毎日通いたくなるような場所になってほしいなって思いますし、町の人たちにも、近寄りがたさを感じることなく、コーヒーをふらっと飲みに来るみたいな形で立ち寄ってもらえるような場所にしたいと思っています。

 

 

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「8つのスタジオ」から生まれる繋がり

鷲見:地下に「プロトタイプを実践するスタジオ」というものを設けています。人生 100 年時代の到来で、副業や学び直しなど、自己実現のために時間を使う人が増えてきました。これまでも「働く」ことや「学ぶ」ことをコクヨはサポートしてきたのですが、そうしたものと「暮らす」ことが、シームレスになっていると感じています。

 

プロトタイプする暮らしを実践するためのリアルスペースということで、みんながやってみたいことを気軽に試せるスペースとして用意しています。

 

自分で事業を始めようとしても、場所を借りるのが負担になってしまいます。そのときにこうしたスタジオがあれば、もっと気軽にチャレンジできるかもしれない、ということで 8 つ用意しています。

 

たとえば、1 つ目の「フィットネス」は床張りになっています。最近パーソナルジムやヨガ教室を個人で始める方がすごく多いと思うんですけども、そういう人もここを借りれば、すぐに教室を始められるんです。

 

他にも、仕事しながら週末だけお店をやっている人とか、イベントに出展している個人の方も多いと思うんですけども、そういった人が使えるように「スナック」というスペースがあります。飲食店の営業許可を取っているので、1 日から自分のお店が始められる場所として想定しています。

 

ただ、場所だけあっても、どうやって使っていいかわからない人も多いし、使っている人同士が繋がっていくためにも、コミュニティマネージャーを中心に、この施設の活用を進めていきたいと思っています。すでにやりたいことが決まっている人は、施設を使ってすぐに始めてもらいたいんですが、まだ何をやるか決まっていない人も、一緒にサポートしていきたいです。

 

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「場」をつくる当事者たちのトークセッション

「場」を続けるために必要なもの

嶋田:MOVが今年で 11 年目ですよね。それだけ長い間「場」が続くって、本当にすごいことだと思っていて。続けていくなかで、きつかったこととか、色々なことがあったと思います。そうしたことを乗り越えながら 11 年も続けられた要因って、どんなところにあると思いますか?

 

太田:もう、ずっと大変です(笑)。まず「私たちも楽しむ」ということを大切にしています。そのうえで、もっと楽しく過ごしていただけるにはどうすればいいだろう、お仕事が盛り上がっていくにはどうすればいいだろう、と常に考え続けてきました。安心できる期間は全然ありませんでしたね。

 

嶋田:スタッフもオープンから10 年勤められている方が多いっていう話を聞いて、それもすごいですよね。コミュニティがしっかりされているのかなと思って、どんな工夫があるのか気になります。

 

太田:MOVでは、本当にいろんな仕事をされている方がいるので、日々スタッフもそれに触れて「飽きない」という要素があると思っています。影響を受けて「私もプログラミングやってみよう」と始めたり、興味が尽きなくて、楽しいからその場にいるっていうのが大きい気がします。あとは、スタッフを卒業したら、MOVの会員になる人も多いんです。

 

鷲見:嶋田さんのPORTOも「1日店長のソーシャルバー」と聞いたときに、最初はやりたい人が自然に集まっているのかと思っていたら、マネジメント体制がしっかりしていて驚きました。

 

嶋田:毎年、各店長と1時間くらいお話しすることも続けています。そこで「本業が忙しくなってきた」「暇だからもっと関わりたい」という話もでてくるので、関わり方も変えながら続けられるようにしています。卒業しても、また戻ってくる人も多いですね。

 

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「みんな」でつくることが、継続に繋がる

 

鷲見:MOVは、イベントも会員さんが率先してやられているんですよね?

 

太田:そうですね。パーティーで楽しく飲むのもいいけど、あんまりお仕事の話ができないので、普段どんな仕事をしているかお互いに見せようということで始めた企画が、『MOV市』です。あまりにコンテンツが良かったので、一般公開していろんな方に見ていただこうということで、 今も続いています。最初は「出てください」ってお願いしていたのが、回を重ねるごとに率先して出てくださる方も増えてきました。

 

鷲見:FLATSをこれからつくっていくなかで、とても参考になります。企画を仕掛けていくことも大事だけど、継続性も重要ですよね。なかなか体力も続かなくなっていきますが、やっぱり、そこにいる人たちみんなでつくっていく、ということを実現させることも必要ですよね。

 

嶋田:施設を継続させていくという視点でも、共に営んでいく関係性って大事だし、その場にいてくれる個人の豊かさを高めていくにも、そうした関係性があることは大切ですよね。その営みが続くことを願ってくれている、みたいな状態が、始まりなんだと思います。

 

誰かに「届く」ことが、場の価値のひとつ

 

嶋田:ちょっとした副業を始めるときに、SNS のアカウントをつくって発信しても、宇宙のなかで声を発しているみたいで、何の反応もなくて、誰に届いてるのかもわからない状態になるんですよね。そういうときに、FLATSの地下のスタジオみたいな自分に合ったリアルな場があって、住民の誰かが参加してくれて反応がもらえることって、すごく続けるモチベーションになるんですよね。始めるモチベーションと続けるモチベーションって、全然違うものなので、そこはすごく重要だと思います。

 

鷲見:MOVに来る人たちのなかにも、きっと事業を始めたばかりの人もいると思うんですけど、一人で事業をやっていると、寂しくなったり、頑張るモチベーションが保てなくなったりする人って多いと思うんですよね。対面で、それを応援してくれる人がいて、そのことを感じられるというのが、リアルな場所の価値なのかって思います。

 

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参加者との質疑応答

 

質問者1:みなさんが「場」をつくっているときに、何か繋がりが生まれそうという「兆し」を感じられるのは、どういった瞬間ですか?

 

鷲見:コミュニケーションが生まれて、何か発生する時って、フックになるものが絶対必要だと感じています。サービスや何かを提供しているってことがすごく大事で、なかでも飲食って、入り口としての機能が本当に優れているんです。あとは、シンプルにお金を払うことで、そこにフックが生まれると感じています。

 

嶋田:飲食は、むしろ「拒んじゃダメ」くらいの雰囲気ですよね。来てもいい、と決まっている場ってすごいなと思います。実際に、バーをきっかけにシェアハウスの入居を決めてくれている方がいたり、ゼミをきっかけにバーを知ってくれる方がいたりとか、結構そういうことはありますね。

 

質問者2:嶋田さんにお聞きしたいです。立ち上げ時の苦しい時期を助けてくれた方がたくさんいたと聞いて気になったのですが、周囲を巻き込むために必要なものは何だと思いますか?

 

嶋田:この質問に自分で答えるのも恥ずかしいですね(笑) ひとつは、自分の得意なことと不得意なこと、凸凹がハッキリしているのがいいのかなと思っています。あとは「こういう未来が来てほしい」ということをイベントや店長の集まりで必ず言うようにしていています。ビジョンを掲げつつ「こうなるはずなんだけど、プロセスはちょっとわからない」と言っていると、その現実と未来とのギャップを埋めようと動いてくれる人が現れるので「未来について解像度高く話し続ける」ということに尽きるのかなと思います。

 

質問者2:「あんまり先のこと考えてもしかたない」みたいなことが言われがちな世の中なので、今の島田さんの言葉はちょっと衝撃的でした。まずは未来を描いて、そのギャップを埋めていく過程を楽しむという姿勢は、すごく素敵だと思います。

 

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質問者3:現在の活動の先に、どのような世界があるとイメージして事業を行っていますか?

 

太田:最近取り組んでるのは、MOVを運営していくなかで必要なプロダクトやサービスがあれば、できるだけメンバーさんに頼むようにしています。MOVで協業を産んで、小さい繋がりをたくさん増やしていきたいなと思っています。実際に体験したうえで自社のメディアでも「これいいよ」って紹介して広めていきたいですね。

 

鷲見:FRATSでプロトタイプをした人が「自分がチャレンジしたかったことを実現できました」って報告しにきてくれるのが、つくりたい世界ですね。それが起きたら、場所をつくった意味が生まれるので、ベストだと思います。

 

嶋田:ソーシャルバー以外のパターンで「場」をつくっていければ、都市に住んでいると感じづらい『よりどころ』とか『やくどころ』というものを感じていけるのかなと。そこで手応えを感じることで、ローカルにコミュニティを維持して、生きることが大丈夫になっていく、みたいなことができたらいいなってことを考えています。

 

勉強会を終えて

異なる目的・コンセプトを持った3施設に共通する部分を知ることで、「人と人との信頼・温もり・繋がりが場を創っていく」と改めて実感する機会になりました。8/コミッティメンバーの繋がりの力で、これからもリアルな価値を世の中に発信していければと思います。(司会・清口)

 

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