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REPORT

d SCHOOL わかりやすいプラスチック
渋谷ヒカリエ8/ コミッティ勉強会 2023年10月23日(月)19:00〜20:30

渋谷ヒカリエ「8/」は8/で活動するディアンドデパートメント、コクヨ、アートフロントギャラリー、アンドコー、東急文化村、東急で構成される「8/コミッティ」により共同で運営を行っています。8/コミッティでは、コミッティメンバーが持ち回りで企画し、それぞれが今何に興味を持ち、どのような活動をしているかシェアしながら相互理解を深める勉強会を定期的に開催しています。

 

今回は、ディアンドデパートメントが企画する長く続く「もの」や「こと」をわかりやすく学ぶ勉強会「d SCHOOL」。同社が2021年より取り組んでいるプロジェクト「Long Life Plastic Project」に関連して「プラスチック」がテーマです。

 

三井化学株式会社の松永有理さんをゲストにお招きし、プラスチックと環境のことや、これからのプラスチックとの向き合い方についてお話を伺います。

<Profile>

松永有理|三井化学株式会社グリーンケミカル事業推進室

2002年三井化学入社後、プラスチック素材の営業・マーケティング、広報、ESG推進室を経て、2023年6月より現職。「BePLAYER」、「RePLAYER」といったバイオマス・リサイクル素材のブランディング・マーケティングに従事。また、2015年には組織横断的オープンラボラトリー「そざいの魅力ラボ(MOLp®)」を立ち上げ、B2B企業における新しいブランディング・PRの形を実践している。

 

ナガオカケンメイ|デザイン活動家・D&DEPARTMENT創設者

その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」、常に47都道府県をテーマとする日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」、その土地らしさを持つ場所を2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動を展開。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」 配信中。

 

 

プラスチックは、どうやってつくるの?

 

 

松永:三井化学はプラスチック材料や化学品を作っている会社です。様々なプラスチック問題がある中で、プラスチックを素(もと)から変えていく取り組みが今スタートしています。その辺を中心にお話しします。

 

まず、プラスチックの原料はナフサと呼ばれるもので、日本語で言うと粗製ガソリン(粗く精製したガソリン)と言います。化学的には炭化水素といって、炭素(C)と水素(H)から成る液体状の物です。これをクラッカーという設備に投入して大体850度ぐらいに熱すると、液体なので水が水蒸気になるように気化するんですね。そうすると沸点の違いによって、炭素数の短いものから順番に純粋な成分が取れてきます。それがエチレンとかプロピレン、ベンゼンといった基礎的な化学品です。

 

例えばエチレンだったら炭素(C)が2個に水素(H)が4個ついているような構造になっています。それを横に繋げていくと、エチレンがポリマーになってポリエチレンになり、プロピレンがポリマーになってポリプロピレンになります。これがプラスチックの流れ。その後、自動車、家電、包装材料、オムツ、マスク、洗剤、化粧品などに使われていきます。

 

 

プラスチックを取り巻く、ふたつの問題

松永:プラスチックを取り巻く問題は、大きく二つあります。一つは、地球温暖化の問題。気温がどんどん上がっていってるのは、観測データでも見て取れます。もう一つは、プラスチックのゴミ問題です。

 

温暖化の方に関しては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の6次報告なんかでも2100年には約6度上がる予測が立っています。6度というと、大体青森が東京になるみたいな感じ。日本で考えても食料や災害などいろいろ大きな影響が出てきそうですよね。

 

ゴミの問題については、プラスチックごみの排出量って年間800万t強あると言われています。ただ、日本はサーマルリカバリー(エネルギーリサイクル)が63%を占めてるんです。プラスチックは石油みたいなものなので、燃やすとエネルギーになります。燃やして熱源にして電気をつくるとか、そういったエネルギーとして再利用されています。

 

リサイクルについては、24%ぐらいというのが実情ですね。炭素を熱源として燃やすのではなくて、もっと素材として考えて有効利用しようというのが一つ大きな課題です。そしてリサイクルの率をいかに上げていくかが、社会の課題です。

 

 

プラスチックは、まだまだ100年の歴史

松永:人と素材の付き合いの歴史を考えてみます。人と石器の歴史は、大体6万年ぐらいです。人と金属の歴史も、1万年近くの年月があります。ガラスも5,000年近くあります。でも、プラスチックって所詮まだ100年強なんですよ。人工的なプラスチックは、1912年にフェノール樹脂が発明されたのがはじまり。人類にとってまだ慣れ親しんでない素材なので、いろいろな問題が起こってるのかなという気がします。

 

素材と人類の歴史を並べてみると、それぞれの素材は何かを解放・民主化してきたとも言えます。例えば石器ができたことによって農耕が始まり、食の解放に繋がりました。製鉄技術が出てきたことで鉄を素材として扱えるようになったことで産業の解放になったり、ガラスが発明されたことにより美という文化の解放、メソポタミア文明が生まれたりとか。紙は知識の解放・民主化とも言えます。プラスチックは、人の豊かさの解放・豊かさを民主化してきたんだと思います。今進めている素から変えていく次のプラスチックも、人類の歴史で何かを解放していく重要なものになっていくと思います。

 

 

三井化学は、どんな活動をしているのか

 

 

松永:バイオマスの取り組みと、リサイクルの取り組み。これを両輪回していくことが必要と考えて、この二つのコミュニケーションを行っているところです。基本設計はエレン・マッカーサー財団のバタフライダイアグラムの考え方に則っていて、再生可能資源を活用することと、すでに世の中にあるストック資源をどう活用して管理するかということを考えています。

 

バイオマスでカーボンニュートラル

松永:温暖化問題解決のため、社会のバイオマス化を進める取り組みをしています。

 

プラスチックの原料を従来の石油ナフサから、再生可能なバイオマスナフサというものに変えていってるんです。これは植物由来などの生物由来のものです。この原料を先述のクラッカーに投入しますので、作られるプラスチックに含まれる炭素(C)と水素(H)は全てバイオマス由来のものになります。それらのプラスチックで作られる自動車や家電も全てバイオマス由来になっていきます。バイオマスは焼却あるいは分解した際に、大気中のCO2が増えることは無いのでカーボンニュートラルとなるわけです。代表的なプラスチックで計算すると、1kg当たり3kg強のCO2削減に繋がります。

 

バイオマスナフサは廃食油などから作っています。植物油や動物油から食用油が作られますけど、揚げ物作って使い終わったら捨てますよね。でもその捨てられる油(廃食油)も見方を変えれば炭化水素なので、綺麗にして、ちょっと水素を足してあげるとバイオディーゼルやSAF(ジェット燃料)といった燃料やバイオマスナフサといった原料ができます。このバイオマスナフサを原料に、僕たちはプラスチックを作り始めています。

 

リサイクルでサーキュラーエコノミー

松永:廃プラスチック等の廃棄物を資源として再利用していく取り組みをしています。

 

原料に廃プラスチック由来の炭素水素を使って、バイオマスナフサと同様のアプローチでリサイクルの物語性を持った原子から成るプラスチックを作りはじめます。

 

CO2増加も抑えつつ、プラスチックをリサイクルするループを作り上げることが可能になります。今までリサイクルのプラスチックって、どうしても品質がどんどん落ちていってたんですが、これだと全く元通りの品質を持ったプラスチック、あるいは価値を上げたようなプラスチックにも変えていくことが可能です。

 

具体的には、廃プラスチックに熱をかけて熱分解すると、液体の炭化水素の油になります。その熱分解油をクラッカーに投入すると、またプラスチックをつくることができます。それをいろいろな製品に展開できますよっていう状態に、今なってきています。

 

三井化学が、現在の活動に至った経緯

松永:消費者にインタビューしたら「脱プラと言われはじめて、消費すること自体に罪悪感を感じるようになった」というコメントがありました。僕も買い物好きですが、罪悪感を感じながら生活するってすごく寂しいですよね。

 

着てる服も靴も車もスマホも今いる建物も、あらゆるものにプラスチックが使われていますので、脱プラにはやっぱり限界がある。限界があるならば、「改プラ」として、素材の素材から変えていってプラスチックをリジェネラティブ(再生的)なものに変えていこうと考えております。

 

消費行動自体が世の中を良くしていけるような、再生的な原料転換。それを根本からできるのは、素材メーカーだからこそなのかもしれません。より再生的なライフスタイルの実現に向けて貢献したいと思っております。

 

 

「Long Life Plastic Project」のプラマグ

 

 

松永:これまでお話ししてきたバイオマスプラスチックで作ったのが、ディアンドデパートメントとの「Long Life Plastic Project」の2023年に発表したコップです。廃食用油を原料としたプラスチックを使っていただいています。

 

バイオマスナフサの取り組みは今までのプラスチックを、意思があればそのままバイオマス化できるっていう状態にまで持ってきていることがポイントです。なので、例えば今お座りのイスでも、この、機材に使われているコードでもなんでもバイオマス化できちゃいます。

 

ただ、やっぱり安く作りたいですよね。品質は石油品と全く同じで、何か機能があるかというと、全く変わらないんですよ。炭素の由来が植物だからって高く買うかって言ったら難しいのが、今の僕らの日常感覚なのかなと思います。

 

そういった意味でも、感性高い人たちのコミュニティともなっているディアンドデパートメントが意思を持ってバイオマス化してくださったのは非常に大きな変化点です。

 

 

参加者との質疑応答

 

 

質問者1:バイオマスプラスチックは、燃やした後、CO2が出にくいんですよね? 従来の石油由来のものと同じ炭素なのに、何が違うのでしょうか?

 

松永:植物はCO2を吸収して成長し、その体に固定化しています。つまり植物の成長により大気中のCO2はマイナスになっています。植物を原料としたプラスチックとなった場合、ライフサイクルの最後に焼却したり分解したりすることで排出されるCO2は、そもそも大気から吸収したものなんです。なので大気中のCO2の総量は変わらないよね、というのがカーボンニュートラルの考え方です。

 

一方で、石油由来の場合は地中に埋まっている炭素を持ってきて大気中へ二酸化炭素として放出することになります。そうすると、大気中のCO2の量が増えて温暖化に繋がります。

 

質問者2:どれが環境に良いみたいな、そういう指標って統一されているのでしょうか? 例えば食品だとこういう場合こういう表記をしなければならないとか決まってると思うんですが、素材ではどのように整理されているのでしょうか?

 

松永:今だとバイオマスプラマーク、バイオマスマーク、エコマークとかいろいろな表記があります。バイオマスマーク(クローバーの絵柄)は最近よく見かけるかもしれません。インキの素材がバイオマス由来だったりします。ただ、例えばバイオマスの使用が商品自体の時も、商品のパッケージのインキ部分だけの時も同じサイズのマークがつくため分かりにくいかもしれません。

 

本当にどれが環境に良いのか知りたい時は、カーボンだけで見るんだったらカーボンLCAで評価するアプローチがあります。もっといろいろな環境問題を踏まえた上で見ていきたい時は、トータルでのLCAで評価することになるかと思います。

 

質問者3:国が2030年に向けて計画しているバイオマスプラスチックの導入量は、現状とかなりギャップのある数字ですよね。何か特定の課題はあるのでしょうか?

 

松永:これまで、使いやすいバイオマスプラスチックがなかったことが一つあると思います。もう一つは、石油品に比べ価格が高くなることですね。ただ、それはプラスチックなど素材の状態で価格比較した場合の話です。最終的に形になった物、例えばおやつのパッケージで考えると、100円のお菓子が102~105円になるぐらいまで小さくなってきます。それを日本の消費者は受け入れられないと言われているのが、今の状況です。

 

質問者4:イメージ先行で、環境に良い悪いが勘違いされやすい事例はありますか?

 

松永:例えば紙ストローなんかもそうですし、紙に変えましたっていうパッケージなんかもLCAで見たときに必ずしも環境に良くなっているわけではなかったりします。もっと心が痛むのはエコバッグ。例えばオーガニックコットンのエコバッグを一個持ったら30年間使い続けないと、30年間毎日レジ袋をもらい続けて廃棄していくよりも環境負荷が悪いというデータもあります。 ただ、あんまりそういうことをリアルに考えていくと、何もできなくなります。そういう事実に気づいたら、その分何か別のことで貢献しようと考えたらいいのかなと思います。

 

質問者5:リサイクルって永遠に続けられるんでしょうか?

 

松永:普通のリサイクル(マテリアルリサイクル)の場合、熱をかけてリサイクルするためプラスチックの分子はどんどん切れていきます。それに伴って強度が弱くなったり、使いものにならなくなっていくんですね。でも、ケミカルリサイクルのアプローチなら量は減衰していきますが永遠にリサイクルできます。炭化水素の状態まで一回戻すので無限ループです。例えば このプラマグを使い終えてケミカルリサイクルして、炭化水素の油にして、新品のコップに生まれ変わらせたり、コップではなく別のもの、例えば車のバンパーや家電、スマホなどいろいろな物に生まれ変わらせることができます。

 

 

勉強会を終えて

 

生活していく上で、常にこうやって意識すると面白いかなと思います。例えば、長いスパンで使うことを毎回いろいろ考えて、プラスチックや石油由来の物に向き合っていけるといいですね。(ナガオカ)

 

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