NIPPON UMAMI TOURISM 植生と文化をまるごと味わう 風土に還るうまみのデザイン
「うまみ」をキーワードに食のロングライフデザインを考える。
「郷土料理」と聞くと、私たちは何を思うでしょう。その印象は、世代によっても異なるように思います。「70代世代にとっては昔から馴染みがあって食べてきたもの。40代から60代にとっては、親、または祖母がつくってくれた懐かしい味。そして20代、30代にとっては全く新しい味として受け止められるようです」と話すのは、今回、d47MUSEUM 第34回展覧会『 NIPPON UMAMI TOURISM』のキュレーターを務める相馬夕輝さん。
相馬さんは、D&DEPARTMENTの飲食部門つづくをたべるディレクターとして、「 d47食堂」を中心に、 商品開発や日本の食文化を伝える活動をしています。
『NIPPON UMAMI TOURISM』では、日本の各地域に根付く「郷土料理」を、「UMAMI」という海外の方にも伝わるキーワードで、料理が生まれ愛され続けた背景、その食文化を守るのに大切な道具、活動、商品などを共に展示し、緩やかに繋がる日本の文化や、各地域の魅力を紹介していました。
こちらが、企画展で紹介された47都道府県別の「郷土料理」の一覧図。故郷の県やその近隣県などの料理名に、懐かしさを感じる人もいるのではないでしょうか?「郷土料理」は、その料理が生まれた土地に馴染みのある食材、山、海、町など料理が育まれる場所、また保存するか旬を食すか、ハレの日か、または日常のための料理なのかなど、さまざまに分類でき、多様性に満ちています。「郷土料理」には今の時代にも役立つ保存の知恵が詰まっているだけでなく、郷土料理がどのように地域で愛されてきたかを知ることで、地域の歴史や個性、魅力に触れることができます。
展覧会では、都道府県別に47つの郷土料理を、47つのテーブルで紹介。郷土料理が生まれた歴史的背景を含め、関連のある食材や調理法、郷土料理を取り巻く文化や地理的な要素が図解され、馴染み深い食材や道具などと共に展示されていました。
こちらは関東圏、埼玉、千葉、東京、神奈川のブース。埼玉は稲作の裏作として小麦生産量も高く、うどん文化が根づいた土地。数多くあるうどん料理の中でも、夏のうどんとして、宮崎の冷汁に似たつけ汁でいただくうどん「すったて」があり、忙しい農家の定番食として愛されてきました。千葉は、利根川の水運のおかげで、群馬や埼玉で採れた大豆の調達ができたこと、また醤油を大量につくっても消費される江戸に近かったこともあり、しょうゆ造りが栄えました。さらに銚子ではイワシ漁も盛んで、「イワシのつみれ汁」が郷土料理として愛されてきました。
また東京の郷土料理では「佃煮」を紹介。江戸時代に徳川家康が大阪の佃村から漁師たちを東京湾近郊に移住させ漁業の土地として発展させたと同時に、佃村で作られていた、貝や小魚などをたまり醤油などの濃厚な調味料を使って煮付けた保存食「佃煮」が広まりました。また隣の神奈川県では「けんちん汁」を紹介。建長寺に集まった全国の修行僧が、冬に収穫される三浦大根を集め「けんちん汁」にしていて、帰った先の文化と融合したオリジナルの「けんちん〇〇」に発展したとされます。
このように、その土地や隣県で獲れる農産物や海産物、流通の便など、その土地の個性から生まれた「郷土料理」は、人の営みによって伝え広げられてきたといえます。
一方でこちらは、熊本の「からしれんこん」。熊本県は、全国的にも上位の生産量を誇るれんこんの産地で、病弱だった細川藩藩主・細川忠利公に増結効能のある「蓮根」を食べさせようと、料理人の工夫から「からし蓮根」が生まれました。「からし蓮根」で健康を取り戻した細川忠利公が、その製造方法を秘伝にしたことで、その製法は明治維新まで門外不出に。「からしれんこん」が熊本らしい食材と言えるのは、限定的な地域で愛されてきた稀有な存在だったからかもしれません。
土地が持つ自然の利や、その土地で採れるもの、人の流れや日々の営みが複雑に絡み合って生まれた郷土料理。それらが各家庭のお母さんの味として広まり、どこか故郷を思わせる料理として一部の世代には根づいている一方、食生活の多様化や、核家族が増え、郷土料理を知る世代との交流が薄くなったこと、郷土料理のつくり方を知っている人の高齢化など、地域の食を未来へ残し続けていくためには、たくさんの課題があります。
さらに、郷土料理の食材にも変化が訪れています。写真は香川県の「いりこのやまくに」による、良質ないりこの目利きについて紹介したもの。香川県では、いりこを出汁として使うだけでなく、「まんば」(高菜のような葉)と、豆腐やいりこの煮干しをいれて炒め煮した郷土料理「まんばのけんちゃん」が各家庭で食されています。香川県の郷土料理材でもある、瀬戸内海産のいりこ。温暖化による海水温の上昇により収穫量が激減し、良質ないりこの入手が年々厳しくなっています。また日本食の根幹を支える「出汁」。日本食は昆布出汁に支えられているともいえますが、真昆布は天然ものが市場から消え、2年養殖もほぼ手に入らない状況。温暖化、流通の発達による地産地消の乱れ、旬でさえもコントロールできるようになった現代社会で、地域らしい食は、今後どのように変化していくのでしょうか?
「海外の方や20代、30代から見た“郷土料理”って、懐かしいものというより、これまで知らなかった新しさや、創作のアイデアになるような見方で捉えられていて、それもまた面白いなと感じています。郷土料理で受け継がれてきた“発酵文化”が関心を集めたり、“ガストロノミー”という地域の風土、歴史、文化を料理で感じる…というところから郷土料理への関心が高まったり…。そうした“郷土料理”の捉え方や関わり方も、良いことだなぁと思っているんです」と相馬さん。「自分が生まれ育った場所の郷土料理をや、旅先で訪れた場所の郷土料理を味わってみること。お母さんやおばあちゃんがつくってくれた料理が、どういう背景で生まれたのかを知ると、誰かに知ってほしいという気持ちになります。知ることに加えて、家庭でつくるというアクションを増やすことで、その素材をつくる人への応援にも繋がります」とも話してくれました。
こちらは郷土料理を食べながら呑める立飲みバー。
館内のミュージアムショップには、展覧会で紹介されていた佃煮などの調理品や、いりこやこんぶ、乾燥しいたけなど、良い出汁づくりにも適した乾物や、ドレッシング、塩、醤油、みりんなど、日本各地の食材が豊富に揃いました。
こちらは、山口県の油谷湾でつくられている塩。原生林の森に囲まれた汽水域で、山からの栄養が海へ流れ出ることで、四季ごとに異なる味わいが感じられます。私も、おすすめされる「秋」の塩をひとつ購入。しょっぱさだけが引き立つ塩と違い、角が立たないまろやかな塩味で、素材の味を引き立ててくれました。塩ひとつとっても、産地によって味わいは異なるもの。土地の食材・土地の調味料・土地の調理法、それらが生まれた歴史や、愛され続けてきた背景を知り、日本の食の根幹でもある「郷土料理」が持つ多様性、創造性、そして生きる知恵に満ちた素晴らしさに気づく展覧会となりました。
⚫️information
NIPPON UMAMI TOURISM 植生と文化をまるごと味わう風土に還るうまみのデザイン
会 期 2024年4月26日(金) - 2024年9月15日(日)
時 間 12:00 - 20:00
場 所 d47 MUSEUM
料 金 ドネーション形式(会場受付)
能登の食文化を未来につづけるために募金をお願いしております。
「NIPPON UMAMI TOURISM」展での皆さまからのドネーションは、能登半島地震の義援金として、全額を寄付させていただきます。
寄付先|四十沢木材工芸・茶寮杣径・谷川醸造・南谷良枝商店・輪島キリモト能登の食文化を未来につづけるために募金をお願いしております。
主 催 D&DEPARTMENT PROJECT
特別協賛:渋谷ヒカリエ Creative Space 8/
協賛 : 亀甲萬本店
協力 : 一般社団法人 農山漁村文化協会
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