大岩オスカール展「乱流の時代の油ダコ」
現代社会が抱えるさまざまな問題を切り口に 独自の世界観を描いたクリエイション
渋谷ヒカリエ4階のヒカリエデッキの外壁に描かれた、幅10メートル、高さ3メートルの巨大な壁面アート。瓶からオイルが漏れた、タコのような「オイル・オクトパス」を描いたこの作品は、現代美術家である大岩オスカール氏がライブペインティングしたもの。大勢のファンが見守る中、モノクロの下絵に着色していく様は、まるで、息吹を注ぎ、命を宿していくかのような作業にも思えました。2024年4月27日(土)~5月12日(日)まで、Creative Space 8/で開催された、大岩オスカール展「乱流時代の油ダコ」をご紹介します。
撮影:野口浩史 / Photo by hiroshi Noguchi 提供:アートフロントギャラリー / courtesy : Art Front Gallery
「乱流時代の油ダコ」のタイトルにもある通り、私たちが生きるこの時代は、自然破壊による環境汚染、それに伴う気象温暖化やコロナウィルスによるパンデミック、そして世界各地で起きている戦争など、まさに乱流の時代といえます。世界のさまざまな海流に乗り、渦のようになって海に集まるゴミの姿をキャラクターに捉えて描いたものの一つが、「オイル・オクトパス」です。
撮影:野口浩史 / Photo by hiroshi Noguchi 提供:アートフロントギャラリー / courtesy : Art Front Gallery
作品中の「オイル・オクトパス」からは、多くの問題を抱えた現代社会の中でも、どこか懸命に生きているようにも感じ、まさにこの時代に生きている私たちの姿を投影しているようにも思えます。
こちらは、「ヘルズキッチン」というタイトルで描かれた作品。緑のカラーで一見平和的で、美しささえ感じるなか、煙・空気・水といった形のないものを描きつつ、その中に爆弾が落とされた戦争のような景色が、キッチンという日常的的な空間に表現されています。
こちらは2019年のパリ日本文化会館での個展をきっかけに生まれたもの。オリンピックをテーマに描いたもので、東京では初展示となりました。オリンピックという平和的なテーマを取り上げつつも、キャラクターの2組が倒れているほか、穴に詰まって身動きが取れないでいる様子を描くことで、オリンピックの背景にある政治や経済と絡み合った複雑な問題を表現しています。
こちらは会場で一際大きな存在感を放っていた、3つのキャンバスを用いて描かれた大きな作品。地震による津波を描いた「サイレント・オーシャン(Silent Ocean)」です。2011年3月11日の東日本大震災による衝撃を受けて描かれた作品は、この絵を見ることによって心を痛める人がいるのではとの思いから、長年保管されていたもの。オスカール氏自身の顔にも見える一つ一つのパーツが、津波によって流された船、木材やコンクリートなどの建築資材、激しい波などで描かれています。
今回の展覧会では、現代社会が抱えるさまざまな問題を描いた作品が多く展示されていた中、とても穏やかな印象を受けたのがこちらの作品。太陽の光を受けた水面の輝き、またはこの空間に漂う穏やかな風なのか、見る人それぞれによって捉え方の異なる美しさが、細やかな黄金のラインで描かれていました。
「作品中には物理的な“物”がもちろん描かれていますが、その物だけを描いているのではなく、感情や、夢、文化などの目に見えないものを、水や煙、炎など形のないもので感情を表現することが多い」と語るオスカール氏。この世の中に存在する全ての出来事が、良いこと・悪いことという単なる二つの局面だけで存在するのではなく、複雑に絡み合った問題とそこに付随する感情があり、その中で逞しくそして穏やかに生きる命が存在する世界観を感じた展示となりました。
⚫️information
大岩オスカール展「乱流の時代の油ダコ」
会 期 2024年4月27日(土) - 2024年5月12日(日)
ヒカリエデッキでの壁画展示は2024年9月末まで(予定)
時 間 11:00 - 20:00
場 所 渋谷ヒカリエ8階(8/CUBE1,2,3、8/COURT)、4階(ヒカリエデッキ) ほか館内各所
主 催 渋谷ヒカリエ8/、株式会社アートフロントギャラリー