内海聖史氏が創作する建築的アプローチによる芸術表現
2024年12月末、8/ COURTからBunkamura Gallery 8/に目を向けると、まるで春が訪れたかのような景色が広がっていました。「flapping painting」と題されたこの作品展示は、現代画家の内海聖史さんによるもの。内海聖史さんは、多摩美術大学で油絵を学び、点描による大規模なインスタレーション作品や、空間全体を意識した展示手法が特徴的で、空間における絵画表現を追求しています。
photo by Ken KATO ©️UCHIUMI SATOSHI
今回、会場で圧倒的な存在感を放っていた作品は、57枚のパネルを組み合わせたもの。鮮やかな色彩で点描された連なる大きなキャンバスは、春の丘に広がる花畑のようでもあり、水面に拡散する美しい光のようにも見えます。内海さんは、絵画を単なる視覚的な表現手段にとどまらず、空間そのものに影響を与える存在として捉えています。
「美しい景色が存在するとして、そこには、木、水、土、などさまざまな要素が単位として存在しています。さまざまな単位の集合体を全体で捉えた時に美しい景色が生まれるのであれば、そのようなものを絵画でも作れるのではないかと考えています。一般的に点が線となり、線が面となって絵を構成するわけですが、絵の具という物質を“点”という単位で用いて、人が作り生まれるものを「絵画」にすることはできないか?と考えています。そのため、描かれた絵画は僕個人の感情や個性とは関係がないものとして捉えています」と内海さん。
作家本人の感情やメッセージが作品と無関係だとするのであれば、どのように作品が生み出されていくのでしょうか。「絵は非常に自由なもので、極小のサイズから地球を覆うような大きさまで、あらゆる可能性がありますし、その絵画に作家が関わっているかいないかも自由です。重要なのは、その空間と作品がどのように関係を結ぶかという点です。例えばこの会場の場合、大きなガラス窓の外から見られることを想定して、会場を計測し、模型を作ることから始まります。周囲の壁や照明の色、天井の高さや会場の広さ、そして防火装置など、その絵画の環境を成す様々な要素を踏まえ、この透明で大きなショウケースのような空間の中に、どういうものが入ったら美しく感じるかを重要視しています」。
photo by Ken KATO ©️UCHIUMI SATOSHI
パネルを組み合わせた大型絵画作品は、いくつかの小作品が展示された可動壁ごとアーチ状に覆うように、ダイナミックに設計されています。壁に配された絵画と大胆な形状の大型絵画がギャラリーの中で二層になり、絵画という存在の自由度を感じさせます。
また、大型の作品がある一方で、5 センチ四方ほどの小さな点描作品も。こちらは、東京都現代美術館に 800 点ほどコレクションされている「三千世界」というシリーズ。「大型作品とは対照的に、空間の中で小さなアートピースが散らばっていても美しいですし、壁に一点配置しただけでも、絵画はその場所に視線を集める作用が生まれます」。
一つ一つの作品は、色調が似たバランスで配色されているものの、どれひとつとして同じものはない、唯一無二の世界が広がっています。内海さんは、単色や多色という概念を超え、色彩の集合体としての美しさを追求しています。例えば、虹色のような多色も、それを一つの塊として捉えた「多色という単色」として画面作りをしています。
photo by Ken KATO ©️UCHIUMI SATOSHI
こちらは、今回のイベントのキービジュアルともなった作品。あらかじめ色を決めずに制作が進められるなどの実験的要素も強く、何層にも重ねられた色が複雑性を増し、再現性のない色の塊となって表現されています。色を配置する際には、ハートや顔など、何かの形に見えてしまわないように、点描と色彩のみで構成し、見る人によって異なった解釈を楽しめるよう配慮されているとのこと。また、同じ色調の作品を何点も描く必要がある際は、制作する時期を意図的にずらして描くほか、少量で絵の具を混色させ偶発的に生み出される色の差異を用いることで、作品に深みをもたらしています。
photo by Ken KATO ©️UCHIUMI SATOSHI
絵画を単なる装飾品としてではなく、建築的アプローチによる空間構成と環境との調和により、空間そのものを変容させる力を持つ存在として捉えた作品展。そして一定のリズムで描かれた点描で彩られる色彩。その美しい世界に没入し、観る者同士の共有体験を得られる作品展となりました。
⚫︎ INFORMATION
会 期 2024年12月21日(土) - 2025年1月13日(月)
時 間 11:00 - 20:00※年末年始の営業時間 1/1、1/2休廊 12/31は18:00まで
場 所 Bunkamura Gallery 8/
料 金 入場無料
主 催 Bunkamura Gallery 8/